エル(Her)


 エルとは最初から不思議な出会いだった。
 2000年9月のある日、妻が車で我が家から前の通りに左折で出る瞬間に、角に子猫がいて巻き込みそうになった。猫はとても幼く、そのまま出かけたら、別の車に轢かれてしまいそうだったので、匿って、家に連れてきた。
 エルは雌猫だった。捨て猫と思われ、誕生日は不明である。

 当時、我が家はゴールデンレトリバーのジュディとセキセイインコのピカを飼っていた。犬がいる中で、猫を飼うのは無理だと思った。
 そこで、近くの動物病院に「猫譲ります」の張り紙をしたり、知り合いの猫好きの人に実際に猫を見せて引き取りを打診したりした。
 しかし、知り合いからはいま飼っている猫との関係から断わられた。また張り紙を見て我が家に訪ねてきた人は、いかにも猫を何かの材料にしそうな胡散臭い商売人だったので嫌な予感がして断ったりした。
 いくつかの引き取り話について、向こうからあるいは自分から破談にすることが連続した後、家族で話し合って我が家で飼うことに決めた。もともと動物好きだった息子は、その結果に安堵したと思う。
 ゴールデンレトリバーの雌犬が先輩としているので、雌猫の名前を、スペイン語の「妹」を意味するHermana menor(エルマーナ・メノール)と名付けた。家族間では、略してエル(Her)と呼んだ。

 誕生日は正確には分からないが、育ち具合から仮に2000年8月20日とした。
私は、猫を飼うのは生まれて初めてだった。

 我が家に来たばかりの頃の写真。息子に抱かれている姿がとても小さく、弱弱しい。

2000/9/23

 2000年10月1日の写真。生まれて40日くらい。

玄関の外のエル

 エルは野良猫出身だけあって、家の外を出歩くのが好きだった。
 気が付くと、家から脱走して家の周りを探検したり、車の下に入ったりした。
 家の敷地内だけならば問題ないが、外の道路にフラフラ出たらとても危ないので、妻はできるだけ外に出さないように気を付けた。
 しかし、エルは隙あらば外出したので、何度も家族で探し回った。

 エルが数か月の赤ちゃんのころ、我が家には既に3歳半のジュディがいた。最初は犬と猫の共存は無理と考えていたので、どうなることかと心配した。
 しかし、ジュディは優しいゴールデンであり、エルに吠えることも追いかけることも一切しなかった。大型犬の穏やかさを改めて思い知った。
 一方のエルは、幼猫で、好奇心旺盛、恐いもの知らずの時期だったので、静かなジュディにしきりにちょっかいを出した。
 エルに叩かれてもジュディは全く怒らなかった。何かジュディはエルに母性を感じているかの様でもあった。
 犬と猫の共存は何の問題も無く、ホッとした。

TO BE CONTINUED

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